アグロカネショウ 売却

個人投資家を中心に自分のポートフォリオを公開していらっしゃる方はそこそこ多いと思います。著名投資家の方々はブログで全てのポートフォリオを公開し、毎日もしくは毎週株価をアップデートしている人も見受けられます。
ポジションを公開すること自体は個人的にはしようとは思えないです。その理由として変に自分のポジションにバイアスがかかってしまう気がするからです。公開することで、余りにもその銘柄に思いれが強くなってしまう気がし、見方を変える時や売りどきが難しくなってしまうと今のところ認識しているからです。

と、いうわけで今回は全売却した銘柄について振り返りの意味も込めてコメントしてみたいと思います。

アグロカネショウ(4955):果樹、野菜向け農薬専業

投資実行: 2017/4 (1,385円)
売却実行: 2017/8 (1,800円)
リターン: 1.3x

投資実行時のテーマ:
+比較的割安: EV/EBITDAで4.2x。設備投資額もかなり限定的。*ネットネット比率は100%程度でdeep valueとは言えないレベル
+成長性: アクティビスト的投資家のCornwall Capitalが2014年に投資実行。ユナイテッドマネーも投資しており、特にCornwall Capitalの教育的なものを感じる(中期経営計画を重視。また、中長期的な戦略を明示していた)また、国内における野菜の生産量は増加しているという背景あり。新薬も19年20年販売開始
+賠償金: 福島工場にかかる賠償金を東電に求めており、恐らくここで10億円規模の回収がされる
+収益性の高さ: EBITDAマージンで15%以上、ROICも高く、安定的に多くのフリーキャッシュフローを稼ぐ見込みが相当見込めた

基本的には成長性があり、高FCFが見込める割には大分割安な企業であるということが投資テーマでした。
ターゲット株価の評価には毎期大体15億円程度のUnlevered FCF、永久成長率は1.0%、割引率を10%、その他ディスカウントを20%程度を使用しており、ターゲットは1600円としておりました。ただ、取得後にすぐにターゲット株価に近づいたため、長期投資有価証券や長期預け金も評価に含め、1800円にターゲットを修正しました。

これは当然ながら投資時には想定しておりませんでしたが、ヒアリ対策、マダニ感染対策というような理由で株価は高騰し、ターゲットである1800円に8月末に達したため全て売却しました。

そもそも圧倒的に割安というようなものでもなく、またターゲットに達するにはある程度時間がかかると思っていたのですが、偶然アグロカネショウに関してポジティブとされるニュースが出たので、想定よりも大分早期に売却をすることになりました。

売却時のEV/EBITDAは6.0x程度であり、まだ割安な感もありますが、その他に新規に投資したい、ポジションを増やしたいと思っている銘柄もありますので、全売却の決断をしました。

Mr.マーケット vs 効率的市場仮説

バリュー投資の始祖であり、賢明なる投資家の著者であるベンジャミングラハムが市場をMr.マーケット(マーケットさん)の話としてその特徴を記載したという話は有名かと存じます。
あなたはマーケットさんと一緒にビジネスを行っており、頻繁にそのビジネスの自分の持ち分をいくらであなたに売りたいと言ってきたり、逆にいくらであなたの持ち分を購入したいと言ってきます。あなたは彼のオファーを断っても問題はないです。基本的には毎日、時には全く違う値段でオファーしてくるからです。マーケットさんはかなり悲観的になったり楽観的になったりするなど躁鬱病でもあります。

マーケットさんには以下の特徴があります。

・感情的で陶酔的であり、気難しい
・しばしば非合理
・取引を実行するかは完全にあなたの判断に任せる
・あなたに安く買い、高く売るチャンスを提供してくれる
・大体は合理的であるが、、いつもではない

上記がベンジャミングラハムの目から見た株式市場であり、市場は時に余りに悲観的になったり、非合理な瞬間がくるので、それをうまく利用すれば魅力的な価格で投資ができるということを表しております。

この考え方がまさにバリュー投資という概念の根源であり、株価がどう動こうが「あっせんなよ」、ということなのです。市場は急に楽観的にもなりますし悲観的にもなりますが、しっかりと本質を見極め、異常に割安に投資できるものが出てくるものを待ち続け、投資後は割安度がいつか解消されると気長に見ていく必要があるということです。

一方で、効率性市場仮説というものも有名です。こちらはノーベル経済学賞受賞したシカゴ大学のユージン・ファーマ教授が論文を書いており、市場は全ての情報に対して効率的であり、株は常に公正な価格で取引されているため、投資家は株を割安に買うことも、割高に売ることもなにもできないということです。市場の平均以上のパフォーマンスを残すことはできないので、ごちゃごちゃ個別銘柄の分析などせずにインデックス買っとけという話です。

完全にグラハムの考えるMr.マーケットの考え方とは正反対であることが分かるかと思います。効率的市場仮説を補強することでよく使われるのが、プロの投資家でも殆どは市場に勝てていないというものです。以下のリンクの通り殆どのヘッジファンドは早期に閉鎖に追い込まれてしまっていることがこの仮説の証左であるとみる方も多いと思われます。
http://www.marketwatch.com/story/hedge-funds-closed-down-last-year-at-a-pace-unseen-since-2008-2017-03-17
これはヘッジファンド/機関投資家ならではの制約によるものが大きいという点もありますので、また別途書きたいと思います。

正直に言って個人的にはMr.マーケット派ではありますが、効率的市場仮説自体にも一般論としていい面がありますので、これも別途書いていきたいと思います。

バリュートラップがあるからこそ、バリュー投資ができる

バリュー投資家にとって一番のリスクとして挙げられるのはバリュートラップと言われるものです。
バリュートラップとは割安な企業が、そのままずっと割安に放置され続けてしまうということです。バリュー投資の対象となる企業は基本的に知名度が低いケースが殆どですのでこのようなことは正直に言って起こりやすいと思います。長期保有が基本となるのはそのためです。

アクティビスト(物言う株主)が大量保有報告書を提出したり、株主提案を通じて株主還元政策を企業側に促すなどのイベントが発生すると一気に割安度が解消されたりもします。とはいえ、すぐにガンガン株価上昇といったことは余り見込めないので、気長に持ち分を保有しておけばよいというのが基本です。特段利益成長を期待しているものでもないのが大半ですので、基本的には確実にキャッシュ・フローを生んでもらい、現金が積み上げがっていくのを見ていればよいかと思います。

以前スクリーニングの仕方で割安度に加えて資金効率とキャッシュフロー創出能力の指標を入れていたのはこれが大きな理由です。割安かつキャッシュフローを安定的に創出する企業でしたら、仮に株価が上がらなくてもその企業に現金は溜まり続けるので、割安度がますます上がっていくわけです。後は企業が株主還元(配当や自社株買い)をするのをのんびりと待つのみです。
割安な企業の中には毎年毎年現金を失っているところも多いので、ここは注意する必要があります。現在キャシュフローが出ていても、業界や競合環境の変化で一気に業績が悪化(現金を失っていく)こともありますので、できるだけ余裕のある企業(キャッシュフロー創出能力が高い)が望ましいというわけです。

以上の通り、バリュートラップはバリュー投資の本質を理解していれば些細な問題でしかないということが分かります。
更に言えば、我々がバリュー投資をできるのは割安に放置されている企業があるからです。割安な企業の株価がすぐに上昇し、価格の歪みが解消されてしまっては、我々が割安な企業を見つけるのが難しくなってしまうことは明白です。多かれ少なかれ、バリュー投資家はバリュートラップのおかげで投資ができていると考えるべきかと思います。保有した途端に歪みが解消されると考えるのは些か自分勝手であると言えることが分かるかと思います。

地味すぎることがハードル?バリュー投資の対象企業

バリュー投資が流行らないと思う理由の一つに、対象銘柄が余りに地味という点が挙げられると考えております。
どうしても株式を投資するときの感覚として、成長率の高い企業、有名な企業、いつも使っている製品、サービスを提供している企業といったファンシーなものに投資したいと思ってしまうのは普通の感覚であるかと存じます。しかし、このような企業が市場で割安になっている可能性はほぼないと考えていただいて結構かと存じます。
以前ご紹介したスクリーニング方法を実行していただければ分かるかと思いますが、一般に知られている企業は出てこないかと思います。小売企業だったり、飲食チェーンなど、普段顧客として関わるような企業がかなり割安(Deep Value)であることはないと考えて結構です。

実際に割安に評価されている企業のビジネスはかなり地味なことが多く、しっかりと資料を読み込まないことには不安で投資できないと思います。また、売上がガンガン伸びているようなケースもまずないので、ますます投資することに対して怖いという感覚を抱いてしまう人も多いのではないかと思います。

しかし、仮に株価が取得時より下がったとしても、既にかなり割安なものがますます割安になっているなーと気楽に思えるかどうかがカギだと思います。もともと売上増も利益増もそこまでは期待していないしねー。。と。

人気銘柄を買ったときには、日々株価の上下に一喜一憂することになると思います。なぜなら、株を取得した際の価格が割高なのかもしれないとか、今後思ったよりも売上が伸びないかもしれないといった不安感と戦わなくてはいけないからです。損切のタイミングでしたり、市場のモメンタムが非常に気になることになるでしょう。自分が想定した色々な要因(対象市場の伸び、シェアの拡大、利益率の上昇、etc.)全てがしっかりとはまらないと、取得したときの株価を正当化できないということが起きるからです。

一方で、バリュー投資家が悩むのはいわゆる割安な企業がずっと割安に放置され続けるバリュートラップというものだけです。株価が下がろうと、ますます割安になっているなー、と基本的には思うだけです。売上が伸びなくても、利益が思ったほど上がらなかっとしても、基本的には絶望的にキャッシュが溶けていく事業環境になるということでしたり大きな粉飾さえなければ基本的には問題がないという考え方ですので。ずっと割安に放置されるというリスクは大いにありますが、それが故に長期保有が基本になるということですので、気長に見ていくというようなメンタリティが重要であることは明らかです。

人は短期に儲けることにかなりの快感を得る生物です。この感覚ばかりは今後も大きく変わるのは難しいのだと思います。ただ、少しでものんびりと、とにかく割安な企業を長期で保有することで資産を形成していくという生き方も広まればいいなと思っております。

割安企業スクリーニング方法 / 投資決定判断

スクリーニングに関しては以前簡単に記載しましたが、以下の通りで行っております。

・EV/(EBITDA-Capex)
・Net net比率
・ROIC
・EBITDA-Capexマージン

1. EV/(EBITDA-Capex)
まずこちらの指標を重視しております。その時点での企業価値がその事業が生み出すキャッシュフローの何倍で取引されているかということを表します。例えばこの数値が10倍であるということは、今と同程度のキャッシュフローが10年程度分で評価されているということです。*但し、以前書いた現在価値の考え方を適用する必要があるので、正確には今と同程度のキャッシュフローよりも多く出ているという考え方になりますね。
ちなみにEBITDAとは営業利益に至るまでに減価償却費というノンキャッシュアウト項目が含まれているので足し戻すという金融業界でよく使用される項目です。EV/EBITDAを基準として見ることの方が一般的ですが、個人的にはCapex(設備投資)がPLを通らない項目ですので(営業利益までに計算されない)、キャッシュフローという観点からCapex分を引いたものをその企業の生むキャッシュフローとして見ております。但しCapexは年によって大分上下するので、3年平均の数値を使用しております。Capexをある程度ならすのであれば、減価償却分を設備投資していると考えてEV/営業利益という指標を使う人もいるかとは思います。

私はこの指標が基本的には5倍以上の企業には投資したことはないです。一方で、事業会社やPEファンドのM&Aでこの5.0倍以下で実施されるケースはほぼないと思います。なんで5.0倍を基準にしているのかと言われると非常に答えが難しいですが、5年先くらいならある程度保守的な予想ならば大きく下に外すことはないのではないかという考え方です。
実際は5倍付近のバリュエーションだと次のnet net比率を大きく上回るケースが多いので、かなり事業の成長見込みなどが強く無い限りはもっと低い水準の企業に投資しております。

(時価総額+現金同等物-有利子負債-少数株主持分)/(EBITDA-Capex)< 5.0

2. Net net比率
こちらはかなり割安なものを見つけるのに使用しております。
以前にもこちらに書きましたが、以下の数値が0.66以下である場合はかなり割安であると見ております。

時価総額 /(流動資産(+その他投資有価証券)- 合計負債 )< 0.66

上記の1.2.のうち、特に2の基準をクリアするのはかなり厳しいこともありますが、以下の2つの基準がかなり高ければ少し甘めに見たりもしております。以下の2つの基準は割安度ではなくキャッシュフローの強さをチェックする指標です。

3. ROIC (Return on Invested Capital)
こちらは以下の通り投下した資本に対して、どれだけの営業利益を生み出しているかというよく使われる指標です。EBITDAとか営業利益率は確かに高いけど、こんなに資産を持たないと駄目なのか。。といったような企業を除くための指標だったりします。

営業利益*(1-法人税率)/(純運転資本+固定資産)

4. EBITDA-Capexマージン
こちらは純粋にキャッシュフローの対売上比率を見るものです。高ければ高いほど、製品の値付けがうまくいっている、競合環境がそこまでひどくないのでは、コストコントロールがしっかりしている企業だとかそんなことが伺えます。

上記の4つの指標をベースに該当する企業を四季報CD-ROMなどのスクリーニングツールを使用して探しております。
これは、という企業を見つけたらその企業の財務諸表を中心に公開情報の読み込みを行います。特に注視するのがキャッシュフロー計算書と貸借対照表です。安定的にキャッシュを生み出す力が本当にあるのか、変な負債などがないか?などを中心に数期分を精読し、問題がないようでしたら投資を実行するというようなプロセスを踏んでおります。公開情報はEDINETに基本的にはあります。その他各企業のIR情報などにも資料は公開されております。